INTERVIEW
UMEZAWA SATOSHI

梅澤暁

株式会社生活と舞踊 代表取締役 https://oreno-nihonbuyou.com/

略歴

一橋大学 社会学部卒業後、一部上場のメーカーに入社。ベンチャー企業で営業や総務部長、新規事業立ち上げ等を経験したのち、2018年から日本舞踊メディア「俺の日本舞踊」を開設、教室支援事業をスタート。2021年に独立、2023年に法人化。日本舞踊教室や流派の支援事業を行っている。

現在の仕事についた経緯

日本舞踊と出会ったのは、営業職をしていた時でした。
優秀な先輩がみな、立ち居振る舞いが魅力的だと気づき、また学生のとき剣道に打ち込んでいたことや、趣味の落語を通じて日本の伝統文化に興味があったこともあり、「仕事にも活きるかもしれないし、日本の伝統舞踊を体験してみよう」と近所の稽古場の門を叩いたことがはじまりです。
和の空間で稽古に没頭することは自分が「整う」時間であり、老若男女、多様な人が集う稽古場は、自分の大切なサードプレイスになっていきました。私の師匠の「もっと多くの人に日本舞踊の魅力を伝えたい」という想いを意気に感じ、一緒に教室HPを作り、集客をしたところ、門下生が3倍以上に急成長したことから「日本舞踊にはまだ伸びしろがある。大好きな日本舞踊の稽古場をもっと盛り上げよう!」とビジネスをスタートしました。

仕事へのこだわり

この仕事をする上では、自分が「良い意味でよそ者」であり続けることを大切にしています。
生活と舞踊では、ローカルSEOを中心として流派や町の教室のマーケティング全般を支援しています。これは私自身がこれまでの仕事で培ってきたスキルを、伝統芸能の世界に応用したものです。
このほかに月間3万PV超のWebメディア「俺の日本舞踊」を通じた日本舞踊の情報発信や、クラウドファンディングで制作し約1,000部を販売した子供向けの日本舞踊のぬりえ教材などは、私が「よそ者」であったからこそできたことだと思います。もし私が生まれて間もない時から業界にどっぷり浸かっていたら、このような選択肢があることに気づきもしなかったかもしれません。
私のお客様である「日本舞踊のプロ」は、舞踊の技術は学びますが、それ以外、つまり教室運営、集客の方法や指導技術などを学ぶ環境がほとんどありません。
そのため、せっかく素晴らしい人柄、技術や芸術性を持っていても、商売として軌道に乗せることができず、教室に人が来なくて廃業してしまうといったことや、若い世代が日本舞踊を仕事として目指しにくくなっている現状があります。実際に、業界最大の団体組織に登録されている師範(先生)の数は現在約3,800人いらっしゃるのですが、ここ8年間で約1,200人、実に24%も減少しているのです。
日本舞踊家の方々が連綿と受け継いできた一流の伝統の技を、今から私自身が身につけ、継承することはできません。しかし、「よそ者」であるメリットを最大限に生かして、日本舞踊の世界とその外側の世界をつなぎ、伝統から革新を生む懸け橋になれれば良いなと思います。

若者へのメッセージ

その時はムダや周り道に思えても、あとから、まるで答え合わせのように、これまでの経験のピースがはまってくることがあります。
私は転職経験が多い方で、最初は経理、続いてNPO法人の学校スタッフ、訪問販売、営業、総務、フリーランスになってからはWebディレクターと、いろんな仕事をし、中にはしんどい仕事もありましたが、それも一生懸命勤めてきました。正直、履歴書はきれいではありません。しかし、今の仕事にはそれらの経験すべてが活かされています。
経理の知識が経営に必要なのはもちろん、お客様に会計のアドバイスもできますし、学校運営の知識は、日本舞踊流派、教室の理解に大いに役立ちました。総務やWebディレクターとして広報やマーケティングに触れた経験は、そのままお客様のビジネスを伸ばすことに直結しています。
キャリアの築き方は人それぞれです。キャリアアップのためにきれいな履歴書に憧れるかもしれませんが、やりたい仕事や、そのとき打ち込める仕事にしっかり取り組むことで、思わぬビジネスに繋がるかもしれません。