INTERVIEW
NATSUYO NOBUMOTO LIPSCHUTZ

リップシャッツ信元夏代

Breakthrough Speaking 代表取締役 http://www.btspeaking.com/

略歴

事業戦略コンサルタント、プロフェッショナルスピーカー。ニューヨーク在住。1995年、早稲田大学商学部卒業。ニューヨーク大学スターン・スクールオブビジネスにて経営学修士(MBA)取得。早稲田大学卒業後すぐに渡米し、伊藤忠インターナショナル・インク(NY)に勤務。その後マッキンゼー・アンド・カンパニー(東京)のサマーインターンを経て、2004年に事業戦略コンサルティング会社のアスパイア・インテリジェンスを設立。同社を通して、調査分析、戦略設計、及びグローバルリーダー育成のための各種企業研修を提供。2014年には、ブレイクスルー・スピーキング™を立ち上げ、グローバルに活躍する日本人、そしてグローバル日系企業向けに、「文化の壁を越えて伝わり、相手を動かす」プレゼン・スピーチを指導。トーストマスターズインターナショナルの国際スピーチコンテストでは、日本人初の地区大会5連覇、世界トップ100入りを果たす。また日本人で唯一のWorld Class Speaking認定講師。2015年にはTEDxWaseda Uにも登壇。2021年6月には全米プロスピーカー協会ニューヨーク支部初のアジア人理事に就任。2019年7月に朝日新聞出版社より出版された「20字に削ぎ落とせ ワンビッグメッセージで相手を動かす」は、発売前からアマゾンのビジネス新書で1位にランクイン、2020年には韓国で、2021年には台湾でそれぞれ翻訳本が出版。2020年6月にはフォレスト出版より、「ストーリーに落とし込め 世界のエリートは自分のことばで人を動かす」が刊行。2023年には中国版刊行予定。その他、アマゾンのベストセラー入りした英語著書にブライアン・トレーシー氏との共著『The Success Blueprint』(Celebrity Press出版)がある。一児の母、競技ラテンダンスのプロアマ選手として世界大会にも出場。乳がんサバイバーでもある。

-現在の仕事についた経緯-

その昔は人前で自己紹介するだけで緊張して脇汗をかくくらい、スピーチやプレゼンには苦手意識がありました。
忘れもしない、ニューヨーク大学のMBAに入学した初日のこと。みんなの前に立ち、自己紹介をする機会がありました。自分の順番が来るまで、手汗、脇汗をかきながら頭の中で何を言うかシュミレーションしていたのですが、いざ自分の番が回ってきて、クラスメート40人の目が一斉に自分に向けられた途端、考えていたこととは違うことが口から出てしまい、まずい!と思った瞬間に固まってしまったのです。頭が真っ白になって、何を言ったかも覚えていません。
たかが自己紹介に頭が真っ白になる自分…と強烈な自己嫌悪に陥り、その後もMBAのクラスでのチームプレゼンは、一番短い箇所を担当して丸暗記したセリフをしゃべるだけで、早く終わってくれることを願っていたものでした。

でも、ビジネスの実践の場では、嫌でも人前で話す機会が生じます。これではダメだ!と一念発起し、トーストマスターズという、スピーチ・プレゼンを学ぶ世界的団体の支部に入会しました。このトーストマスターズには、国際スピーチコンテストという一大イベントがあるのですが、過去の世界チャンピオン達からの個人コーチングなどの助けもあり、なんとノンネイティブながら、ニューヨークの地区大会5連覇(2020年現在)という成績を残すことができました。
全てのコーチが口を酸っぱくして強調していたことは、「たった一つの大事なメッセージに絞り込む」ということです。余計な言葉や情報を徹底的に削ぎ落とすことで、いかに伝わりやすくなるか。そして具体的に表現することで、たった5分でも、いかに相手を動かせるか。ここで学んだことは、すべての「伝える」技術に不可欠な、「戦略的思考法」でした。
英語がネイティブでなくても、スピーチを戦略的に学べば、ネイティブに勝つこともできるのだ、と実感した私は、プレゼンに苦手意識を持ちがちな、グローバルに飛躍したいすべての日本人に「相手を動かす醍醐味」を伝えたい、グローバル・パブリックスピーキングの伝道師になりたい!という情熱がふつふつと沸き起こりました。
そうして生まれたのが、ブレイクスルー・メソッドです。

MBAでの自己紹介で失敗した日からプロスピーカーになるまで、20年以上が経過しました。あの日から私は、あらゆる書籍はもちろん、World Class Speakingコーチ認定プログラムの受講、個人コーチングの受講、全米プロスピーカー協会への入会などを経て、現在でも、プロスピーカーの集中ブートキャンプに定期的に参加しながら、自分自身の学びを皆さんに還元すべく、スキル研鑽に勤めています。
長きにわたり学んできたハウツーを、誰にでももっと簡単に活用できるように作り上げてきた、ロジカル思考法×ストーリー術×異文化コミュニケーション理論の合わせ技で、戦略的にスピーチ・プレゼンを実践する手法こそが、ブレイクスルー・メソッドです。

日本企業はモノづくりの強みをてこに、60年代ごろから販売と製造のグローバル化を成し遂げてきましたが、「ヒトのグローバル化」において他国に比べ未だ大きく遅れを取っています。
ビジネス、経済、政治、医学、科学、教育などなど、分野に関わらず、日本人がもっとグローバルに活躍していくためには、多様性を受容しつつ、価値観を伝達・浸透し、国や文化を超えた人々を束ねて変革を実現していくことのできる、「グローバルコミュニケーション力」が必要不可欠です。でも日本人はこれまで、そのような教育を受けてきませんでした。
特にグローバル・パブリックスピーキングは日本人が最も苦手とするところだと言われています。私はここに、日本人のグローバル化が遅れている大きな原因があるのでは、と考えています。
そして、デジタル時代の今だからこそ、人と人との心の繋がりが求められるパブリックスピーキングというアナログなコミュニケーション手法が、世界の人々を真の意味で結びつける鍵になると確信しています。
Breakthrough Speaking™は、言葉や文化、価値観の壁を打ち破り、人々の心をも魅了していく、グローバル・パブリックスピーキングの総合コンシェルジュとして、世界に羽ばたく全ての日本人リーダーが更にグローバル舞台でのプレゼンスを高めていくことができるよう、心から願っています。

-仕事へのこだわり-

「誠・和・魂(せいわこん)」です。これは、日本の自動車部品業界をけん引してきた亡き父の信条でした。「誠を以って人と接し、和を以って事を計り、魂を以って志を貫く」という意味です。とても日本的な精神かもしれませんが、私はアメリカで28年間仕事をしているため、アメリカ式に偏りすぎず、日本の良さとアメリカの良さをバランスよくブレンドさせた精神性を保っていたいと考えています。そのためにも、「誠・和・魂」を私のビジネスのポリシー、そして自分自身の信条として掲げ、オフィスでもデスクに座ると目の前に見える位置に、父の直筆の「誠・和・魂」という文字を飾り、いつも意識できるようにしています。
新人時代に、アグレッシブに頑張りすぎて、人を押しのけてしまうようなことがあった時も、先輩から「誠和魂はどうしたんだ?」と言われ、ハッと我に返ったことがありました。この「誠和魂」という、父から受け継いだ信条は、自分の原点に立ち返る起点となっています。

-若者へのメッセージ-

私は、ノンネイティブのいわゆる純ジャパにもかかわらず、アメリカで、プロフェッショナルスピーカーとして活動しており、さらには全米プロスピーカー協会ニューヨーク支部にて、アジア人初の理事にも就任しています。はた目から見たら、自信に満ち溢れたバイリンガルのプロフェッショナルに見えるかもしれませんが、実は内心、どこか自信がなかったり、挑戦を恐れたりしている自分が常にいます。
でも、成長というのは、自信の上に積み重ねるものというよりも、「怖いな、自分には無理かも」と躊躇するような場所に自分を放り込んでみた延長線上に見つかるものなのではないでしょうか。皆さんも、自分に自信がなくなったり、挑戦に恐れを感じたりするようなオポチュニティー(機会)がやってきたら、まずは、「Yes!」と言ってみてください。気が付いたら、「あ、ちょっと成長したかも!」と気づくはずです。
オポチュニティーは、誰かがあなたの可能性を感じているから訪れるものなのです。自分にはわからなくとも、誰かはあなたの価値を見出してくれています。だから、疑心暗鬼でも「Yes!」と言ってみるのです。「Yes!」と言ったら、あとは「誠・和・魂」で進んでみてください。そんな挑戦が、必ずあなたの糧になるはずです。