INTERVIEW
NANBU YASUYUKI

南部靖之

株式会社パソナグループ 代表取締役グループ代表 https://www.pasonagroup.co.jp/

略歴

1952年生まれ、兵庫県出身。1976年、関西大学工学部卒業。「家庭の主婦の再就職を応援したい」という思いから大学卒業の1ヶ月前に起業し、人材派遣システムをスタート。以来『雇用創造』をミッションとし、新たな就労や雇用のあり方を社会に提案、そのための雇用インフラを構築し続けている。

ロングセラー企業の極意

私が大学4年生当時は、いわゆる就職氷河期と言われる時代でした。なかなか内定がもらえないと嘆く学生は数多くいましたし、特に女性の雇用率は男性よりもさらに低いという状況が続いていたのです。そんな社会の中で、私が最も大きな問題だと感じたのは主婦層の復職が困難な状況にあるという点でした。結婚や子育てなど様々なライフステージを乗り越え、また会社員時代に培ったスキルを活かして働こうと考えても、企業が雇ってくれないという社会環境が根付いてしまっていたからです。私は「ボランティア活動の一環として、こうした主婦の方々の雇用を解決できるサービスを提供したい」と、父に相談を持ちかけたこともありました。しかし父は言ったのです。「自分で起業し、自分で資金を得て、広く社会に貢献しなさい」、と。それが大学の卒業を間近に控えた1976年、パソナグループを創業したきっかけになりました。

人材派遣事業を立ち上げ、まずはじめに取り掛かったのは仕組み作りです。一度家庭に入った女性でも、経験や実績さえあれば大企業の正社員と遜色のない処遇で働ける。そうした環境が必要だと考えたからでした。主婦の中には、週に2・3日しか働けない、1日4時間しか働けないなど、労働条件が限定されてしまう方もいらっしゃいます。そうした条件下でも社会保険や年金を受け取ることができるセーフティネットを開設し、大手企業の正社員と同等の給与を確保していく働く場を提供していきました。もちろん時間や処遇に限らず、自分の家の近くで、自分のスキルを活かした仕事ができる応募も増やしていきました。それを機に口コミが広がり、多くの女性人材が集まるようになっていったのです。

それからというもの、パソナグループは「年齢・性別を問わず、一人ひとりの人生設計、ライフスタイルにあわせて働くことができる社会」を目指し、多種多様な雇用インフラを構築し続けてきました。「社会の問題点を解決する」という企業理念のもと、同じ志を持った仲間も数多く賛同してくれています。そうした使命感や志があるからこそ、ロングセラー企業として成長を続けることができるのではないでしょうか。

未来に向けて、土薄き石地かな

パソナグループは創業以来、働きたいと思う誰もが性差や企業規模、雇用形態に捉われず、働くことのできる社会環境を提供し続けてきました。誰もが安心して自分の実現したい使命や夢を追い続けてもらえるような環境を用意していくことが、私たちの役割でもあると考えているからです。
自分自身を表現することこそが、働くことだと私は思っています。そして働くことで人に喜ばれ、それが周囲にも伝染し、社会が豊かになっていくのだと考えてきました。だからこそ、働くことを通じて自分の使命や夢を実現し、いかに社会に貢献できるかが重要なのではないでしょうか。

今後は地方創生を担う意味でも、地域ごとの特長や特色を活かし、多様な人材が地方で働けるような仕組み作りを構築していければと考えているところです。地方には都市部にはない豊かさがあり、地方の可能性を掘り下げていく余地はまだまだあるでしょう。そして地方での雇用創出を促すことで、地域社会の少子化問題にも貢献することができるかもしれません。そこに社会問題を解決する新たな糸口があるのではないかと思うのです。

私が大学4年生で起業した時、そのきっかけを与えてくれた父が私に教えてくれた言葉が2つありました。1つは「英雄は若者から生まれる」。そしてもう1つは「土薄き石地かな」という言葉です。土が少なく石ばかりの地面からは芽が出にくく、芽を出すのは力がいる。しかし一旦芽が出ると、その芽は強いということです。「苦労は買ってでもしろ」と私は解釈していますが、若い皆さんも苦労を惜しまず汗水を垂らし、自分の夢や使命の実現に向けて、ぜひ挑戦を続けてください。