INTERVIEW
INUI MASATO

乾雅人

医療法人社団創雅会 銀座アイグラッドクリニック 理事長・院長 https://ginza-iglad.com/

略歴

東大医学部卒。外科専門研修の後、大学院では肺移植領域の研究に従事。医療業界のプロ経営者を志向し、2020年に銀座アイグラッドクリニックを開業。『美養と老化を科学する。』の通り、世界最先端医学を美容領域、アンチエイジング領域に適用している。他、大学病院や製薬会社、生命保険会社に医療コンサルティングも提供している。

現在の仕事についた経緯

医療一家の次男として育ちました。5歳の時、肺移植の研究目的にドイツに留学した父親に憧れ、兄弟ともに東大医学部を卒業、胸部外科を専攻しました。理想的なキャリアの筈でしたが、国家財源が限られる中で、理想の医療を追求するには現実的な財源確保が必要でした。医療業界にこそプロ経営者が必要と感じ、医療コンサルティングの実務経験を経て、独立開業を決め、現在に至ります。クリニック経営を通じて、新しい医師像を世間に情報発信しています。『医の常識を揺さぶる』をコンセプトにYoutubeチャンネルも運営中です。

仕事へのこだわり

比較・類推・相対化という方法論を実践しています。日本の良さを認識する手段として、海外旅行が有用なのは一定の納得感が伴うものかと思います。本質を掴む為には、他の何かと比較して、仮説検証するのが最適です。
官僚用語で「川を上る、海を渡る」という言葉があるそうです。現在の日本の状況を捉えるには、10年前の日本の状況を調べたり(川を上る=時代を遡る)、現在の諸外国の状況を調べる(海を渡る=海外に目を向ける)と良いという意味合いです。これが比較・類推に相当します。
相対化とは、一旦出した結論を妄信しすぎないという戒めの姿勢を含みます。しかしながら、前提として、その結論を絶対的なものとすることがあります。今現在与えられた情報では、これ以上に優れた意思決定はないと確信するまでに考え抜き、その上で、何か追加情報があった場合は、前提が覆ったとして、柔軟に次の結論に到達するという姿勢です。
これは、学生時代に読書した書籍に由来します。比較・類推は、東大京大生協で最も売れている本である「思考の整理学」から。相対化は、「はじめての構造主義」から。数多の書籍を読破して、実体験と共に染み込ませた方法論は、キャリア選択でも有効でした。
外科医になるからこそ、初期臨床研修では対極である内科を重点的に。胸部外科を専攻するからこそ、外科専門研修では腹部外科を2年間修練する東大胸部外科(大学院進学コース)プログラムを選択しました。そして、肺移植領域を専攻するからこそ、心臓外科のトレーニングも希望しました。臓器横断的な外科修行に加え、外傷外科(交通事故など)、感染症外科(膿胸や虫垂炎など)、腫瘍外科(肺がんや胃がんなど)、移植外科(肺移植)といった、病態生理の軸でも多面的な修行を行いました。
この経験に裏打ちされた「外科学総論」という観点は、現在のクリニック経営や医療コンサルティング業務でも有効な武器となっています。

若者へのメッセージ

原体験を積むことを何よりも大切にしてください。仕事、恋愛、部活、バックパッカー等、没頭できるものが良いです。
ITやAIの登場により、世の中は便利になる一方です。だからこそ、人間味、情緒や情動といった要素が差別化のポイントになります。何かをプレゼンする時、誰かにセールスする時、商品が似たり寄ったりならば、取引する相手の魅力、人間味の価値が際立つ一方です。
優秀だけれども無味乾燥、人間味が無い方よりも、能力は多少不足していても人間味のある方が、きっと重宝されると思います。勿論、能力があった上で、人間味があるのが一番ですが。