INTERVIEW
ARAI YOSHIHIRO

新井善博

テラベース株式会社 代表取締役 https://terabase.co.jp/index.html

略歴

東京工業大学卒業。新卒で日本電子株式会社に入社し、透過型電子顕微鏡の開発を担当。海外勤務(London)を4年経験。定年退職後、テラベース株式会社に所属し、2014年より代表取締役。現在は、つくば NIMS内の中和科学株式会社にて、装置創りを続けている。

-現在の仕事についた経緯-

長年、物つくり(透過型電子顕微鏡、電子光学機器)をしてきて、定年後もそのまま続いています。趣味と実益が両立した稀有なケースで、50年近く同じスタイルで仕事が続けられています。
日本電子株式会社での在籍勤務では、開発部門を外れて生産技術部、海外駐在(イギリスのロンドン勤務4年、技術セールス担当)を経験しましたが、一貫して新しい試みの装置開発を行ってきました。
定年後のテラベース株式会社においても、研究所、大学研究者から特殊装置の製作を依頼され続けています。
現在の顧客は物質材料研究機構、高エネルギー加速器研究機構、産業科学研究所、岡崎生理学研究所、東京工業大学などです。

-仕事へのこだわり-

わからないことは人に聞き、なるべく人の知恵を借りて仕事をすることです。2人に聞いて同じ回答なら即採用、異なったら要注意で、考え直します。そして情報収集したら、判断できないことは自分の頭が悪いからとは思わず、情報不足と認識し、1週間、3か月、1年と考え続けます。10年後に実現できたアイデアもあるほどです。
判断を急がず、会議は開きますが多数決で決めないようにしています。本気で考えているのは10人いても3人くらいなので、多数決を取ると平凡でつまらない結論になると思っているからです。
ものつくり・会社経営は民主主義の多数決とは全く別なもので、会議中に表情を良く見ておき、会議の後のお茶の時間、昼休みなどに、個別に質問して本当の意見を聞き出します。そして3回くらい会議をしたのち、飲み会に誘います。飲み会は人間交流の必要条件です。誘うときは全額自己負担、時間は3時間くらいを覚悟し、相手が帰ると言うまで付き合います。誘ったほうが時間を決めないこと。課長などの役職手当はこの経費と認識しています。会社の経費で飲ませても社員は言うことを聞いてくれません。安い居酒屋でも身銭で飲ませて初めて心を開いてくれるのです。本当のことを聞き出すにはこのくらいの努力は必要です。
設計は方眼紙に書いて考えます。CADは使わないため、紙一枚あればどこでも考えられます。これは先輩から教わった昔のやり方ですが私には身についた方法です。㎜単位で考えられるので非常に便利です。
起き掛けに新しいアイデアが浮かんだ経験も片手くらいあります。仕事上は上手くいっても失敗しても話半分と認識すること。そうしないと心が落ち着かず疲れてしまいます。

-若者へのメッセージ-

外国を旅行して初めて日本の良さが理解できるように、多くの人に接して初めて自分が何者かがわかります。だから人との交流は大切です。学校の成績に捉われず、人より秀でたところ、劣ったところをよく認識し、得意なところを理解したうえで仕事に活かすことが重要です。
仕事をする上でのポイントは、周りの人に聞いて、このやり方で良いのか確認しつつ行うこと、なるべく先輩・同僚の意見を聞くことです。そうすると、周りの人も安心してみてくれるようになり、相互に安心感が生まれ、ストレスがなくなります。
仕事の上で能率を下げる最大の障壁はストレスで、良い仕事をしようとするには、如何にストレスを減らすかがカギとなります。入社したときは、周りの人が自分を見ているような気持ちになりますが、周りの人は自分のことなどまったく気にせず仕事に追われているのが現実です。眠い時は社内を歩き回る。調子が悪いときはすぐに休息する。これは当たり前のことです。
会社を辞めたくなった時は、何故なのか理由を考えましょう。私の周りには、「給料が安いから」と金で辞める人はおらず、人間関係、仕事がつまらなくなったなどの理由が聞かれました。
人間は環境の動物なので、仲間を作ることが大切です。それには遊ぶこと、スポーツ、クラブ活動、趣味、飲みに行くことなど、仕事以外の活動も必要となります。良い仕事をするためにはよく遊ぶことが必要不可欠で、紙の裏表のようなものです。
石の上にも3年。3年は我慢すること。上手くいかないからと自分を卑下するのはダメです。頑張りもせずに、学歴がないから、頭が悪いからなどとできない理由を考え、自分の才能を見限るのは最悪です。できる人の2倍時間をかければ出来るはず。自分のペースで確実に行うことが重要なのです。
嫌な人がいても、良い人も同じ数いるはずなので、良い人を探し、交われば気持ちも落ち着くでしょう。人と話をするときは相手の目を見て話をすること。
20代は大人になったと思いがちですがまだ予備軍です。30歳になった頃に初めて大人、一人前になったと自覚します。わからないこと、知らないことを素直に聞くことは大切ですが、自信がないとなかなか知らないとは言えません。「こんなことも知らないのか?」と思われるのを恐れるためです。わだかまりなく「知らないから教えて」と言えるのは、自信が付いた30歳くらいからです。
日本の教育は不十分です。日本語の教育が不足しています。人との交わり方、話し合いの仕方、発表の仕方、文章(報告書、議事録、依頼文など)の書き方など、大学を出ても何一つ十分とは言えません。会社に入り、これを自覚しマスターするのに3~5年を要しました。文章を書くことは頭の中で論理的思考が伴いますから全てにおいて有効です。これらも上手にこなす先輩の真似をすることが最短の近道です。
仕事に向かうときは学歴、ポジション、プライドを捨て、クリアキーをたたき、頭を無の状態にして真摯に向かうことです。私の恩師に、「長い間先生をしてきたが、教育では人間の頭はよくならないことがよくわかった」と言われたので、「大学教育とは何ですか?」とお聞きしたところ、「言葉がわかる(専門用語が理解できる)ようになるということですね」と言われました。
中学・高校の知識は覚えておいて使えないといけませんが、大学の知識は、試験前に一度だけ覚えて忘れても構いません。でも、教科書は残しておくこと。一度覚えたことは、「何かあったな」と教科書を開けば思い出せます。
知識を会得するにも深さがあります。知っていること、認識していること、理解していること、仕事に応用できること、他人に教えられること、周辺知識との距離関係がわかること、と続きます。少なくとも仕事に応用できなければ社会人として、知ってるうちには入りません。